雨の時間 僕と君との約束








小さな出来事が波紋を呼び、ボンゴレは敵対するファミリーと紛争を起こした。
勝利は得たものの、ボンゴレファミリーの十数名の若い命が散った。



それから一ヵ月が過ぎた、ある日の事。





「10代目〜〜〜?どこですかーー10代目〜〜〜?」


僕が屋敷の廊下を歩いていると、反対側から自称右腕の男が歩いてきた。

「じゅーだい……あっ オイ骸、10代目見なかったか?」

「見てませんよ、食堂じゃないんですか。」

もうすぐ昼ですし、と骸はチラリと時計を見た。

「いや、それがさっきまで自室にいらっしゃったはずなのに、俺が迎えに行ったら いらっしゃらなくて………。」

「そうですか……。何かあってはいけませんからね、探しますよ。」

「おうっ……!」

獄寺は元気よく返事をすると、骸の来た方向へと走り去っていった。


(やれやれ………どこに行ったんでしょうね……お姫様は………。)


骸は先に仕事で使っていた本を戻す為に書庫へと向かった。
書庫は屋敷から少し離れた場所に位置しており、いつもならば綺麗な庭園を眺めながら進めるのだが、
今日は生憎の雨で庭園の花を眺めている余裕はなさそうだ。

(まったく………うっとおしいですねぇ…………。)

骸はそう毒づき、薄暗く水で満ち溢れた世界を窓から覗いた。

(………………っ!!!!?)

骸は持っていた本を投げ捨て、走り出した。









降りしきる雨の中 彼はただ立っていた。





「…………何をしてるんですか。」


骸は庭園の中に一人、傘もささずに立ち尽くしている人物に話し掛けた。


「あっ………むく………ろ。」

ボンゴレファミリー10代目ボス・沢田綱吉は
目線を一度骸に向けるが、すぐにうつむいてしまう。

「何をしてるんですか、傘もささずに……、風邪でもひいたらどうするんですか、早く中に………」

骸はずぶ濡れになっている綱吉に傘をかざし、額に張りついた前髪をどけるが 
綱吉はふるふると首を振ると傘から出ていってしまった。
雨の中顔を上げ、じっと空を見る。


「だめ……なんだ、せっかくの…………雨……だから…………。」

「………つな、……よし……くん……?」

「時間が………できた、から……今じゃないと………。」



そう言った綱吉の顔は悲しみに歪み、頬に流れるのは雨だけではなかった。



「…………ッ!」

それを見た骸はすぐに綱吉を引き寄せ、抱き締めた。
さしていた傘はふわりと舞い上がり、地面に落ちた。


「む………くろ………?」

「………っ!何故隠れて泣くんですか………っ!!!」

荒げられる骸の声とは反対に綱吉の声はいたって静かだ。

「みんなに………心配かけちゃ……いけないし……。」

「そんなこと貴方が気にする必要はないでしょう……っ!?」

「ダメなんだ……それにこれは、俺が勝手にしてること、……だから………。」

「それでも僕はッッ………!!」



貴方を一人、悲しませるなんてしたくない………!!

骸は言葉を詰まらせると、綱吉の肩に顔を埋めた。


「骸………、泣いてる…の……?」

骸は綱吉の問い掛けには答えず、ただ抱き締める力を強くした。



「ごめん………、でも俺は……ココロを殺すなんて、できないから………
ちゃんと……泣いておかない、と………。」






あの紛争の後、ボスである俺はただ残った仕事を片付けることしかできなくて、
俺なんかを守るためにこの世界から消えてしまった者達に花をたむける事しかできなかった。
一粒も涙を流さずに見送った。



人前では泣くなと家庭教師に教わってから、俺は昔みたいに人前ではすぐに泣かなくなった。
しかし悲しい出来事は続いていくもので、俺は何かある度に夜中にこっそりと部屋で泣いた。
でも朝には目が赤くなっていて、まわりにはすぐ気付かれてしまっていた。


上に立つものは何があっても動じてはならない。


その言葉が俺に強くのしかかってきて、泣いていい場所がわからなかった、そのときだった。



ぽつりぽつりと自分のココロを見透かしたように空から涙が落ちてきた。




ああ、一緒に泣いてくれるんだ。




そう思って窓の外を眺めて泣いたのはもう半年も前のことだ。

その時から決めていたんだ。

「………次は、一緒に泣いて……全部流してもらおうって………。だから俺、待ってたんだ、今日を。」

雨が降るこの日を。


「………だから、お前がそんなに辛そうな顔する必要、ないんだ………。」

「…………ッッ!!」

綱吉は骸の頬にそっと触れる。

「ごめん………心配かけて………あと少し、だから………。」

綱吉はそう言って骸の腕の中からするりと抜け出た。
しかしそれを骸が許すはずもない。



「馬鹿じゃないですか!!貴方はっ!!!」

骸はそう言って、今度は逃がすものかと荒っぽく綱吉を腕の中に閉じ込めた。

「むく……!」

「本当に馬鹿ですよ貴方は………。」

「…………うん。」

「こんな雨の中…………っ」

「……………うん。」

「………何の為に僕がいると思っているんですか………。」

「…………骸?」





「貴方がこの雨の中でしか泣けないと言うのなら、僕も一緒に泣きます。だから………。」








だから・・・、どうか一人で泣かないでください。






「うん………っ」





『雨の時間 僕と君との約束』








END