ヤキモチ・・・。
自分の好きな人が何をしているのか知りたい。ふとそんなことを思った。
ただ……それだけ。
(あっ 佐野くんだ。)
犬丸は自分の愛しい人を見つけると
すぐに木の枝に座り、
授業を受けている恋人の姿を嬉しそうに眺めていた。
(佐野くん眠そう……。)
犬丸はクスッと笑うと再び佐野に目を戻した。
ここは稲穂中学校。犬丸はそこで一番大きい木の枝にいた。
何故 犬丸がそんな所にいるのか、それはふとした思いつき。
散歩をしていた犬丸は自分の恋人・佐野清一郎は今、何をしているのだろう……。
もちろん学生なのだからこの時間は授業を受けているのだろうが、
わかっていても一度気になると気になって仕方ない……。
それに、思えば犬丸は佐野の学校生活を見たことがない。
犬丸はいけないことだろうと思いながらも 佐野のいる中学へ足を向けた。
(佐野くん、寝ちゃだめですよ。)
そして今に至る……。
犬丸は聞こえるワケもないのに今にも夢の世界に旅立ちそうになっている佐野に注意をしていた。
(ふふっ…可愛いなぁ……。)
犬丸はニコニコしながら佐野を眺めていると授業終了の鐘がなった。
そしてその大きな音のおかげで現実に引き戻された佐野は
身体がびくりと反応し、椅子から転げ落ちそうになっていた。
まわりの生徒は平然と教材を片付けているのだか、佐野の行動を見ていた犬丸は吹き出しそうになった。
(ふふっ……ホントにもぅ……)
愛しい…。犬丸はそう思った瞬間自分の顔が赤くなるのを感じた。
ふとした愛する者の仕草でこんなに愛しいと思える……。
自分は、佐野のことがこんなに好きだったのだと再確認して 顔を朱に染めていたのだ。
(どうしよう…かなわないなぁ…ホント……。)
犬丸は小さく呟くと再び目を佐野に戻した。
(あれ………?)
犬丸は先程まで佐野が座っていた場所を何度も見たが佐野の姿はない。
(さっ佐野くん!?どこに……っ)
犬丸が佐野のクラスを見渡すと佐野は教室から出ていく所だった。移動のようだ。
(追い掛けないと……!!)
犬丸は必死になって窓越しに 佐野を追った。
(いた……!!)
佐野を探して15分、犬丸はやっととの思いで佐野を見つけた。
佐野は家庭科室にいた。調理実習のようだ。
(よかった……。見つからなかったらどうしようかと……。)
何がどうしようなのか。誰かがいたらそうツッコミを入れていただろうが悲しいことに犬丸1人である。
犬丸はふぅと息を吐き出すと、近くにあった木の影に隠れた。
佐野を見るとエプロンを付け、ボールを抱え、 何かを混ぜているようだった。
(佐野くんが料理してるのなんて久しぶりに見たなぁ……。)
前に佐野が自分に腕をふるってくれた時のことを思いだしながら犬丸はのほほんと佐野を眺めた。
「あ‥……。」
犬丸が声を出してしまったのは佐野によからぬ事が起こったからである。
料理をしていた佐野にクラスメイトであろう女子達が仲よさ気に佐野のまわりをうろうろしているからである。
それだけなら他のクラスメイトとなんら変わりなく問題ないのだが、
(むしろ佐野がクラスで人気者だということを確認できて嬉しい。)
先程から佐野のまわりをうろうろする女子達は佐野の顔についたクリームをとったりと、
あからさまに佐野の傍に近寄る。
恋愛方面に疎い犬丸でもあそこまでされれば気付く。
あの女の子達は佐野に好意を抱いている、と……。
無意識のうちに犬丸の嫉妬心に火がつく。
(そんなにくっつく必要ないじゃないですか……っ!!)
犬丸の顔が段々険しくなっていく。
(それに佐野くんも佐野くんですよ……!)
当の佐野は別に女子に気をかけるわけではなく、
料理を作るのに夢中で女子達には やらせたい放題である。
別に相手をしているわけではないのだから
特に問題はないように思われるのだが犬丸にはだいぶお気に召さないようだ。
(あぁっ!!もぅっっ……!!)
もし 今あそこに割って入れるのならすぐに佐野を、あの女子達から引き離したい…。
そう心の中で強く想っても何もできない自分が犬丸はどうしようもなく情けなく、
そして同時に疎外感を感じた。
(あのコ達は……下手したら、これから、ずーーっと佐野くんと勉強できたり、他愛のない話をしたり、……できるんですよね………。)
それに比べて自分は人間ですらなくて、男で、年は13も離れていて、
今は“恋人”そしてパートナーとして傍に居られるがバトルが終わってしまえば自分は………。
(………っっ!!!)
犬丸は大きく頭を振り、さっきの思考を消し去ろうとした。
(…………。)
しかし頭のモヤモヤは消えるわけもなかった。
再び犬丸が佐野の方を見ると先程と変わらない様子だった。
(っ………!!)
それを見ているのが辛くなった犬丸はフラフラと学校を出た。
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