走りの才







空が朱から闇に染まろうとするころ小林は今日の職務を終えて帰路につくところだった。
いつものコートを着て職員玄関から出るとグラウンドで走っている生徒を見つけた。
下校時刻はとっくに過ぎている。教師として注意しなければならない…。
面倒だが近づくとあまりにも知りすぎた顔だった。

「!…コバセンっ」

キレイな緑の髪の少年、植木耕助はジャージ姿で
小林を見つけると嬉しそうに足を止め、小林の元に駆け寄ってきた。

「どうしたんだコバセンッ今帰り?」

その姿はまるでかまって欲しくてたまらない犬のようだ。

「どうしたじゃねーだろ下校時刻、とっくに過ぎてんぞ」

「ぁぁ……もうそんな時間だったのか…走ってたら気付かなかった……」

植木は ぼーっとあたりを眺めた。

(そうだった……走りの才が……) 

走りの才がなくなってから植木は目で見て分かる程走るのが遅くなってしまった。 
それでも植木は1秒でもタイムを縮めようと努力しているのである。

そこを思うと小林はさすが自分が選んだ中学生だと思う。
才をなくす原因を作ったのは小林ではあるが……。

「練習はいーことなんだがな、今日はもう遅いからいーかげん帰れよ?」
小林が植木の頭を撫でると植木はにかっと笑った。

「うん…。今日はもう帰る。……コバセン」

「ん?」

「………一緒に帰っていい?」

「ッッ………!!」

上目遣いで小首をかしげられては小林はひとたまりもない………。

顔をくずしそうになりながらも あぁ…と返事を返した。植木は嬉しそうにグラウンドへ駆けて行く。

「これ片付けるから、ちょっと待っててくれっ」

これ、と いいながら 植木が持っているのはカラーコーンだ。
コースの目印に使っていたようだ。
小林は曖昧に返事を返すとカラーコーンを抱えて体育倉庫に入る植木のあとについた。 
倉庫に入ると埃や土の匂いなど特有な匂いがした。
普段こんなところには入らない小林は辺りを物珍しそうに眺める。
小さな窓が2つあり、もうわずかになった日の光が差し込んでいる。

「これで よしっ、とっ……。」

植木はカラーコーンを元の場所に戻すと小林の方へ向き直った。

「ゴメン コバセンっ すぐ着替える………こばせん?」

振り返った植木が見たのは倉庫の扉を閉めている小林の姿だった。 
倉庫から出る為には扉を開けなければならない。
それなのに何故小林は閉めるのだろう植木は不思議に思い、
小林に駆け寄ると今度は倉庫の天井が見えた。




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